『雨宿りの檻』

今日は会社で取り返しのつかない大失態をやらかした。
逃げ込むように飛び込んだのは、普段なら先輩と通っている路地裏の馴染みのバー。僕は一人、喉を焼く強いウイスキーを煽るように胃袋へ流し込んでいた。
土砂降りの雨のせいか、薄暗い店内にいるのは僕とママの二人きりだ。いつもなら隣に先輩がいてくれるのに、今夜ばかりは合わせる顔がない。
（先輩……すみません、こんな情けない後輩で……）
カウンター越しに漂ってくるのは、鼻腔を麻痺させるほど甘ったるい香水の匂い。
「……元気ないじゃない。どうしたの？」
いつの間にか隣のスツールへ音もなく滑り込んできたママの指先が、僕の太ももへと躊躇なく這い上がってくる。

（……え……？ ちょっ……）

薄暗い店内の隅、酒の勢いと自棄っぱちな感情に煽られ、僕の血流はすでに沸点を超えていた。
男の肉体というのは、恐ろしいほどに単純で無様だ。
布越しに伝わってくるママの異常に高い体温。耳元に吹きかけられる、湿り気を帯びた熱い吐息。
薄いブラウス越しに豊かな胸元を腕へ押し当てられるたび、下腹部の奥深くがドクドクと重く拍動し、下半身は痛いほどの熱を帯びてパンパンに張り詰めていく。

（はあ……っ……）

深いため息が漏れる。自分の意志とは完全に乖離して疼く肉体に、猛烈な情けなさと苛立ちが募る。
ママの長い爪が、僕の太ももの内側の筋をゆっくりと弄りながら、スラックスのファスナーのすぐそばまで這い上がってきた。
「……ねえ。奥のソファー席、行こ？」
完全にロックオンされた。もはや逃げ場はない。
うっとりと瞳を湿らせたママは、無防備な獲物を品定めするように、至近距離から僕の顔を覗き込んでいる。
一瞬、空気の読めないママの図々しさに呆れもしたが、今の僕の最悪な気分には、この泥沼のような展開こそがお似合いなのかもしれない。

（……もう、どうにでもなれ）

自暴自棄の波に呑まれ、この行き場のない苛立ちごとママにぶつけてしまおうか――。
僕の手が勝手に彼女の腰を引き寄せようと動いた、まさにその瞬間だった。

カランコロン、と冷たい雨の気配とともに乾いたドアベルが店内に響き渡った。

「――お待たせ」

低く、よく通る男の声。
張り詰めた僕の下半身へすっと視線を落とし、わずかな間を置いて、男は冷ややかに皮肉った。

「……随分と楽しそうに飲んでんじゃん」

カウンターの空気が一瞬にして凍りついた。
弾かれたように顔を上げると、雨に濡れた黒いコートの襟を払いながら、見知った顔――職場の先輩であり、普段から僕を何かと気にかけてくれる男が、冷たい眼差しで立っていた。
